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本学への寄付

ジュラ紀の地球温暖化からの回復期に海洋一次生産性が増大-山口県の堆積岩から色素分子化石を発見-

 

発表のポイント

  • ジュラ紀の分析困難な岩石から、光合成色素の化石を発見
  • 炭素循環の乱れが回復するタイミングで海洋一次生産性が増大

概要

 約1億8300万年前、大規模火成活動によって石炭が燃焼し、大量の二酸化炭素やメタンが放出されることで、炭素循環の乱れと顕著な地球温暖化が発生しました。それに伴い、世界各地で巨大な嵐の多発、海の貧酸素化、海洋生物の大量絶滅など、大規模な環境変動が引き起こされました。
 この環境変動からどのように回復したかを理解するには、海洋での有機物生産量を示す「海洋一次生産性」が重要となります。これは、植物プランクトンが光合成を行い、環境中の炭素から有機物を生産することで、海底へ埋没した有機物の分、大気―海洋系から炭素が隔離されるためです。
 しかし、当時の岩石記録はヨーロッパに偏っているうえ、過去の一次生産性を正確に復元すること自体が難しく、地球全体で海洋生産量がどう変化したのかは不明なままでした。
 188博金宝,188博金宝网页大学院創成科学研究科博士前期課程の河端康佑大学院生らの研究グループは、これまで「有機分子の分析には不向き」とされてきた日本(山口県)のジュラ紀堆積岩から、光合成色素由来の分子化石の抽出?分析に成功しました。その結果、炭素循環の乱れが回復する過程で、海洋一次生産性が最も上昇していたことが初めて明らかになりました。本成果は、パンサラッサ海西縁に位置したアジア地域のデータとして貴重であり、地球規模の環境変動に対する海洋一次生産性の応答メカニズムを解明するうえで重要な手がかりを提供します。
 本研究の成果は、国際誌 「Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology」への掲載に先立ち、11月5日付電子版に掲載されました。

詳細

 約1億8300万年前のジュラ紀前期、超大陸パンゲアは現在の大陸配置に向けて分裂しつつありました。分裂に伴って発生した大規模火成活動は、大量の炭素を環境中に放出し、顕生代最大規模の著しい炭素循環の乱れ(CIE)と、急激な地球温暖化を引き起こしました。その結果、巨大な嵐の頻発や、海洋の貧酸素化、海洋生物の大量絶滅といった深刻な環境変動が発生しました。これら一連の現象はトアルシアン海洋無酸素事変(T-OAE)と呼ばれています。
 T-OAEの回復過程を理解するためには、海洋一次生産性(植物プランクトンによる有機物生産)が重要な鍵となります。これは、植物プランクトンが光合成により、環境中の炭素を有機物に変え、その一部を堆積物中に埋没させる働きがあるためです。しかし、T-OAEの岩石記録はヨーロッパ地域に偏っており、特に、当時最大の海洋であったパンサラッサ海のデータが不足しています。さらに海洋一次生産性の復元自体も難しく、化石?有機物の保存状態や、陸地からの有機物の流入の影響を考慮する必要があります。そのため、当時の海洋一次生産性がどのように変化し、どの程度回復に影響したのかは不明なままでした。

 188博金宝,188博金宝网页大学院創成科学研究科博士前期課程の河端康佑大学院生らの研究グループは、この問題を解決するため、山口県下関市にあるパンサラッサ海北西縁の地層に着目しました。しかし、この地域の岩石は熱の影響を受け、正確な海洋一次生産性復元に必要な有機物が残りにくいと考えられていました。そこで、研究チームは、比較的熱に強い、固体有機物中の光合成色素由来の分子化石(※注)を検出できる分析手法を適用することで、当時の海洋一次生産性の相対的な変化を高い精度で推定することに成功しました。

 分析の結果、光合成色素の分子化石(4種類)が発見され、それらの層序的な含有量の変化は有機物の保存状態や陸上有機物の影響を受けていないことが示唆されました。これにより、本地域では炭素循環の乱れが最も進行した時期に海洋一次生産が上昇し始め、回復する過程でピークを迎えたことが明らかになりました。 
 注目すべき点は、この一次生産性のピークが、一般に一次生産性を高める要因とされる洪水や嵐の痕跡の形成よりも後であることです。このことは、本地域において未だ発見されていない、海洋一次生産性の増加をもたらす要因が存在することを示唆しています。
 その候補として、山火事や海流の変化による栄養塩供給量の増加が考えられますが、現時点で直接的な証拠が得られておらず、さらなる調査が必要です。
 本研究は、T-OAEによって引き起こされた大規模な環境変動からの回復と、海洋一次生産性の変動の関係を明らかにするうえで重要な知見を提供します。しかし、海洋全域の傾向はいまだ不明です。今後、T-OAEにおける海洋一次生産性の全球的な傾向を調べることで、T-OAEの回復過程に海洋一次生産性の果たした役割の全容を明らかにすることが期待されます。

図.前期ジュラ紀の古地理図および、発見された光合成色素の分子化石(4種類)と炭素循環の乱れ(CIE)の対応関係。古地理図中の赤星で示された地域は、本研究における分子化石の産出位置を示す。プリンスバッキアン、トアルシアンは前期ジュラ紀におけるサブステージ。

用語解説

  • ※注 分子化石
    生物由来の難分解性有機分子として堆積物中保存された有機分子のうち、その起源生物を特定できる分子サイズの化石。

謝辞

 本研究は、下関市立自然史博物館 豊田ホタルの里ミュージアムの協力により、地権者の許諾を得て行われました。

論文情報

  • 雑誌名:Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
  • 論文名:Increase in marine productivity during the recovery phase of carbon isotope excursion from the Toarcian Oceanic Anoxic Event at the Northwest of the Panthalassa Ocean
  • 著 者:Kohsuke Kawabata a,*, Masayuki Ikeda b, Akihiro Kano b, Megumu,Fujibayashi c, Ryoko Senda c, Ryosuke Saito a,*
    (*責任著者, a188博金宝,188博金宝网页, b東京大学, c九州大学)
  • 掲載日:2025年11月5日(オンライン掲載)
  • 掲載URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0031018225006777
  • DOI:10.1016/j.palaeo.2025.113392

 

本件に関するお問い合わせ

  • <本研究に関すること>
    188博金宝,188博金宝网页大学院創成科学研究科
?代表 河端 康佑(かわばた こうすけ)
 E-mail:kohsuke.kawabata01@(アドレス@以下→gmail.com)
?講師 齊藤 諒介(さいとう りょうすけ)
 Tel:083-933-5623
 E-mail:saitor@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
  • <報道に関すること>
    188博金宝,188博金宝网页総務企画部総務課広報室
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